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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)50号 判決

判   決

福岡県筑後市大字牟田六六二番地の二

上告人

柿原政雄

福岡市行町六二番地

古田金作訴訟承継人

被上告人

古田イシ

ほか三名

右被上告人四名訴訟

代理人弁護士

久保田源一

右当事者間の抵当権設定登録手続請求事件について、福岡高等裁判所が昭和三三年一〇月八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があり、被上告人らは上告棄却の判決を求めた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人らの本訴請求を棄却する。

訴訟費用は各審を通じ被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人池橘助の上告理由第一点について。

原判決(第一審判決引用)が確定した事実によると、昭和三〇年一〇月二二日被上告人ら先代古田金作と上告人および訴外槇正樹との間に、右古田を抵当権者として、上告人および右訴外人の共同鉱業権に属していた本件鉱業権に抵当権を設定する旨の合意が成立したというのであり、本件記録によると、その後所論のように昭和三〇年一一月二五日本件鉱業権が訴外平田裕一に譲渡され、さらにその後訴外富重清市および上告人に譲渡されて、現在はこの両名の共同鉱業権となつていることは当事者間に争いのない事実である。原判決は、このような場合に、上告人と古田金作との間に、前記共同鉱業権上の二分の一の持分について抵当権を設定すべき合意があつたものとして、その登録手続を命じていることは、原判文上明白である。

しかしながら、共同鉱業権の持分について、抵当権を設定することは許されないと解するを相当とする。けだし、鉱業法ならびに鉱業登録令中に、かかる鉱業権持分上の抵当権設定を予想した規定がないのみならず、共同鉱業権者間には法律上当然に組合関係が生ずるので(鉱業法四四条五項)、もし鉱業権持分の上に抵当権が設定されるとすれば、その実行により何人が競落するか予断しがたく、しかもその競落人は鉱業権持分を取得することにより法律上当然に組合員となることを強制されるものであるところ、このような結果は、対人的信頼関係を基礎とする組合の本質に反することになるからである。されば、原審がこの点を看過し、漫然上告人に対し本件共同鉱業権持分上に抵当権設定登録手続をなすべきことを命じた第一審判決を是認したことは、法令の解釈適用を誤つたものというべきで、論旨は理由があり、原判決は他の上告論旨に対する判断をまつまでもなく破棄を免れない。

そして、前示事実関係によれば、被上告人らの請求はこれを棄却するのが相当であり、当審において裁判をなすに適しているから、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 藤 田 八 郎

裁判官 池 田   克

裁判官 河 村 大 助

裁判官 奥 野 健 一

裁判官 山田作之助

上告代理人池橘助の上告理由

原判決は法令の適用を誤つた違法があり判決に影響を及ぼすことが明かである。

第一点 本件請求の金銀銅硫化鉄鉱四十六万八千二百二十坪採堀鉱区は乙第四号証(登録元簿謄本)に登録せらるる如く順位九番に於て昭和三十年十月二十二日受附第二二四八号を以て訴外槇正樹、上告人柿原政雄の共有となり順位十番に於て昭和三十年十一月三十日受附第二五〇〇号を以て訴外平田裕一の名義に移転し順位十一番に於て昭和三十年十二月九日受附第二五四四号を以て現在訴外富重清市、上告人柿原政雄二人の共有となり居ることは明瞭の事実で当事者双方に於て争いのないところである。

右登録の如く上告人は本件採堀鉱業権は単独にて所有したることなく始めに訴外槇正樹と共有し其後所有者に変更があり現在の鉱業権は訴外の富重清市と上告人との共有である事も明瞭なる事実で争いのないところである。

果して然りとせば鉱業法第二三条第⑤に『共同鉱業出願人は組合契約をしたものとみなす』と規定しあり又同法第四四条⑤に『共同権者は組合契約をしたるものとみなす』と規定してある。

従つて民法組合契約の規定が適用せらるる結果二人以上共同して鉱業権を有するときは其鉱業権は組合財産に属するを以て民法第六七六条により各共同鉱業権者は鉱業権に対する自己の持分を単独にて処分することを得ざるものである。若し単独にて之を処分したときは其処分は之を以て組合及組合と取引を為したる第三者に対抗することを得さるものである。是を以て共同鉱業権者中の一人が単独にて採掘権の持分に付き抵当権を設定するも其の設定行為は唯当事者間に一種の債権的関係を生することあるに止まり之に因りて物権的に抵当権の設定ありたるものと謂ふ可からざるものと信ずる。従つて共有者の全員が抵当権設定を承諾するか或は共有者全員に対して訴を提起して其登録手続を求むるは格別、共有者上告人一人に対し抵当権設定登録手続をせよというが如き判決は不法の判決であつて正に鉱業法第二三条、同法第四四条第⑤項の適用を誤つた違法の判決であると信ずる。

第二点 鉱業法第二三条①項には二人以上共同して鉱業権の設定の出願をした者は省令で定める手続に従いそのうちの一人を代表者と定めこれを通商産業局長に届け出なければならないとあり又同条第②項、同第③項の規定及同条第④項に代表者は国に対して共同鉱業出願人を代表すると規定し又同法第四四条第①項にも鉱業権を共有する者は省令で定める手続に従いそのうちの一人を代表者と定めこれを通商産業局長に届け出なければならないとあり又同条第②項、第③項の規定及同条第④項に代表者は国に対して共同鉱業権者を代表すると規定してあるから共同鉱業権者が通商産業局長に対して為す登録等(抵当権設定)手続は共同鉱業権者を代表するものの行為でなければ仮令判決であつても代表者にあらざる共同鉱業権者の単独による登録申請手続は受理せられざるものであるから共同鉱業権代表者にもあらざる上告人単独に対し抵当権設定登録手続を為すべしとの判決は右鉱業法第四四条の適用を誤りたる判決であると信ずる。

以上の理由に依り原判決は法令の適用を誤つた違法があり破毀を免れざるものと信じます。         以上

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